2021-06-10

『華氏451度』と米国テレビ普及率

NHK放送文化研究所の年報「第44集」(1999年)には「米商業テレビネットワーク50年の軌跡~プライムタイム番組編成からの考察~」という報告があります。その「第2章第2節 テレビ創成期(40年代後半~50年代前半)」を読むと、次のような事が書いてあります。

  • アメリカでは、ラジオ全盛時代の1941年に商業テレビ放送は誕生した。
  • WW2の中断を経て、1948年には4ネットワーク(NBC、CBS、Dumon、ABC)がニューヨークを中心にプライムタイムでの番組提供サービスを始めた。
  • 「表5 テレビ受信機台数普及の推移」(資料:Broadcasting & Cable Yearbook)によると、1946年には所有世帯数が8,000世帯(普及率:0.02%)だったものが、1950年には3,875,000世帯(9.0%)、1955年には30,700,000世帯(64.5%)に急上昇した。

日本では1959年4月10日の御成婚を契機にしてテレビが普及したと言われています。アメリカの方が早いのは当然なのですが、それでも21世紀の今日のように充実した番組が提供されていた訳ではなかったと思います。


『華氏451度』は1953年に出版されました。100分 de 名著のテキストには「同年春、ブラッドベリはのちに『華氏451度』に発展する中編を書き始めます」(11頁)とありますが、この「同年」というのは1950年のことだと思います。さて主人公モンターグの妻ミルドレッドは、「ても、第4のテレビ壁がとりつけてあったら、もっともおもしろくなるはずよ。はやくお金を貯めて、第4の壁をとり払って、テレビ壁にとりかえなけりゃ」と語るように、テレビにのめり込んでいる人物として造形されています。


『華氏451度』をレイ・ブラッドベリが執筆したのは、アメリカでテレビが急速に普及した時代と重なっています。ブラッドベリもテレビを視ていたのかもしれませんが、今日の我々がテレビ番組に対して抱くイメージとは異なっていたのではないかと思います。それなのに『華氏451度』が描くテレビの姿は、今日の我々が思い描くテレビのイメージと極めて似ている気がするのです。


100分 de 名著のテキストによると、『華氏451度』は「作家や文学研究者など「その道のプロ」には必ずしも評判がよくない」(5頁)とのことです。そのような評価が妥当なのか不当なのか判断できませんが、少なくともテレビの未来を描き出してみせたブラッドベリの洞察力は卓越していたと思うのです。

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