平家物語巻一の「祇園精舎」には、次のような件があります。
其先祖を尋ぬれば、桓武天皇第五の皇子、一品式部卿葛原親王、九代の後胤讃岐守正盛が孫、刑部卿忠盛朝臣の嫡男なり。
これは平清盛に言及した直後に置かれている一文です。ここに限らず、平家物語では人物の描写において、「○○の孫、××の子」のような表現が度々現れます。
私が参照した書籍ではフリガナも振ってありました。それによれば「讃岐守正盛が孫(ソン)、刑部卿忠盛朝臣(アソン)」となっていました。その後に続く「殿上闇討」にも同じような描写があり、そこでは次のようになっています。
其上忠盛の郎党、もとは一門たりし木工助平貞光が孫、進の三郎大夫家房が子、左兵衛尉家貞といふ者ありけり。
ここでは、「平貞光が孫(まご)」とフリガナが振られています。先程の例では「孫」を「ソン」と読ませるのに、こちらでは「マゴ」としています。これは偶然であって、特別な意図はないのかもしれません。
深読みすぎるかもしれませんが、最初に挙げた例では「孫(ソン)」の後に「朝臣(アソン)」が続くので、韻を踏んでいるのかもしれません。「刑部卿忠盛朝臣」のように、姓(ここでは「平」)ではなく、名前(忠盛)の方に「朝臣」をつけるのは「名乗り朝臣」なのだとウィキペディアには記述されていました。そこには「四位以下の者は氏、諱の下に姓をつけて呼称した」と記述されており、刑部卿は、官位相当表で正四位下のようですから、「刑部卿忠盛朝臣」になるのは何の問題もないのですが、わざわざ「朝臣」を入れなくても「刑部卿忠盛の嫡男なり」でも構わない気がします。
あえて「刑部卿忠盛朝臣」と「朝臣」を加える事で、「ソン」と「アソン」と韻を踏む効果が出るのを狙ったのではないかという気がします。
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