サマセット・モームの『人間の絆』を読んでいるところです。主人公フィリップは、画家になるのを諦めてパリからイギリスに戻り、今度は医者になろうと学校に入ります。その学校の講師のひとりについて、次のような描写がありました。
後で聞いたが、ミスタ・カメロンは、王立美術院の学生たちにも、講義をしているのだそうである。以前、東京大学の講師をして、長いこと、日本にいたこともある。
『人間の絆』という作品が発表されたのは1915年です。これは和暦ならば大正4年になります。この作品は、ドキュメンタリではなく基本的には小説なので、現実に起きたことが語られている訳ではないでしょう。イギリスを含めたヨーロッパを舞台にしていることは明瞭ですが、何時頃なのかは定かではありません。ビクトリア朝末期ではないかという気がするし、小説の中には「1892年の秋以前に登録をすませていた者は、云々」ともありますので、だいたいその頃だとは思います。
カメロン講師が日本に住んだことがあるというのは、明治時代のことでしょう。東京大学の講師をしていたというのも、いわゆる「お雇い外国人」ということだったのかもしれません。日本居住経験にせよ、東大講師の経歴にせよ、いずれにしても本作品は「小説」なので、サマセット・モームがそのように書いたという以上の現実があるわけではありません。もちろん、このように書くにあたり、誰か参考にした人物が存在していた可能性はありますし、その人物が日本と関わりを持っていたのかもしれません。
『人間の絆』を読んでいる途中なので、まだストーリーは分かりませんが、カメロン講師が日本と関わりがあったという描写は、後々のための伏線ではないような気がします。
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