東京大学出版会の広報誌「UP」通巻580号(2021年2月5日発行) を読んでいて、「テレビ番組における虚構とサイエンスコミュニケーション」に興味をひかれました。書かれているのは、あるテレビ番組の制作担当者からの問い合わせに対応した際の経験を踏まえて科学者としてのあり方を論じています。
経験談として事例を2つあげていますが、その具体的な経過は時と場合によって夫々でしょう(事例とはそういうものです)から、また別な経緯もありえるでしょう。そして最後に「改善は可能か」というタイトルで、次のような事を語っています。
一つは、事前の下調べリサーチに十分な時間と人的資源を当てることだ。予算の少ない番組だと、製作チームのうちの最若手あたりに事前リサーチをやらせる傾向がある。これはきわめて危ない。(後略)
このような問題は、テレビ番組制作サイドに限らず、現代社会の各方面でみられる傾向ではないかと思います。IT関係の「プロジェクト」などは特にそうかもしれません。
要するに「下調べリサーチ」に価値を認めていないのでしょう。それ故に、最若手にやらせておけば十分だという発想が出てくるのでしょう。しかし最若手という存在は、様々な雑用を押しつけられる存在です。あれもこれもやらなければならないので、時間もないでしょう。結局は、「下調べリサーチ」というのは、そのような「雑用」のひとつにすぎないと思われているということです。知的作業を「無駄」(とまでは言えなくても)だと判断しているのかもしれません。
このようなことを考えていた時に、NHKで放映されている「100分 de 名著」で視た場面を思い出しました。2021年2月のテーマは、フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』でした。その第4回目(2021年2月22日放送)で聞き手の伊集院さんが、テレビ局のトイレで見た「ここで寝ないでください」という張り紙に関するエピソードを語ります。これは「下調べリサーチ」の問題とは違いますが、通ずるところがあるように思います。
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