Webで動画を観ていたら紹介されていた『地下鉄道』を読んでみました。
19世紀前半の米国南部の農園で奴隷として働かされていた少女が北部を目指して逃亡しようとする物語です。タイトルにもなっている「地下鉄道」を利用して州境を越えていきますが、「地下鉄道」というのは地下鉄ではありませんし、そういうものが当時実在していた訳でもありません。アメリカで最初の鉄道とされるのは1826年10月7日に開通したグラニット鉄道のようですから、小説で描かれる時代と同じ頃です。当然ながら、当時の人々は鉄道なんて見たことも聞いたこともなかったでしょう。ですから「地下鉄道」というのは、本物の鉄道というよりは、奴隷解放を助けるための「地下組織」という意味です。しかし小説で描かれる「地下鉄道」は、地面の下に本当に作られた鉄道路線であるかのように表現されています。
小説の章立ては、舞台となる州の名前と、登場する人物の名前を交互に組み合わせていて、よく考えられているという印象をうけます。物語の最後の場面においても、逃亡している少女は北部に辿りついていません。小説の途中でも、逃げおおせたかと思えば、逃亡奴隷として捕まってしまったりしていて、最終的に少女は北部に行きついたのか定かではないままに、物語が閉じられています。しかし少女は北部で自由を得て生涯を全うしたのではないかと思います。そう思わせるような描き方やエピソードがあるので、読者は少女の未来を想像する面白さがあります。
物語のテーマが南北戦争よりも随分前の南部の奴隷制度を扱っているため、読むのが辛くなるような描写は少なくありません。直接的に描くと刺激的すぎるところですが、そうかと言って間接的に描いて読者の想像に任せるだけでは、ぼんやりした作品になってしまいます。このあたりのコントロールは著者の腕の見せ所ですが、うまく描けていると思います。ただし表現は、具体的なところも多く、決して穏やかに読み進められるばかりではありません。
この作品は、2016年に出版され、数々の賞も受賞し、テレビドラマ化もされるようです。小説であれば、読者の想像に任せれば良いのですが、映像化されるとなると、いったいどのような表現になるのか気になります。
0 件のコメント:
コメントを投稿