江戸時代までは、せいぜい「何日に出発する、到着する」というゆったりとした時間感覚であった日本人の暮らしの中に、〇時〇分という細かい時刻が定着していった過程には、鉄道が及ぼした影響は大きかったようです。日本に鉄道が導入されたのは、別に日本人に時間間隔を身に着けさせようとしたからではありません。しかし鉄道を運行させるためには必然的に時分単位の時間感覚が求められ、結果として私たちの生活に時分(場合によっては秒までも)感覚が浸透することになりました。忙しないと感じられることもありますが、今更江戸時代の時間感覚の社会には戻れないでしょう。
新技術が暮らしに新しい感覚をもたらす事例は、他にも考えられます。例えば携帯電話はどうでしょうか。
固定電話しかなかった時代には「相手に直ちに連絡をとることは出来ない」のが前提で社会が動いていました。だから待ち合わせをする時には事前に場所や時間を細かく打ち合わせていましたし、 会社などが担当者と連絡を取りたい場合でも事務所に電話して伝言を頼むなどの方法が必要で、とかく手間暇がかかりました。
携帯電話を個人が持つ時代になると、電源が切れているとか圏外とかにはなりますが、たいていは必要を感じた瞬間に相手に連絡をとることができます。その時に相手が何処にいて何をしているのか、意識せずに連絡をとることができます。これはとても便利なことです。事前にあれこれ考えて手を打っておかなくても、気が付いた時点で、必要な人に連絡して、問題を解決すればよいだけだからです。その一方で詰めが疎かになり、出たとこ勝負で行動しがちになり、思考が甘くなる傾向にあるのではないかと思います。
新しい技術は新しい行動様式をもたらします。 その技術の無かった時代には戻れないでしょうが、人としての能力の劣化は避けるように心がけたいと思います。